PFOSとは?物質の特性や規制の背景、人体への影響について解説

PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)とは、高い安定性や撥水・撥油性といった特徴をもつフッ素化合物の一種で、通称「フォーエバーケミカル」と呼ばれるほど自然界で分解されにくい物質です。
近年は各国で規制強化が進められ、環境汚染や人体への影響が注目されています。
本記事では、PFOSについての基本情報から最新の規制動向、さらにPFOAなどの関連物質(PFAS類)との違いも含めてわかりやすく解説します。
PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)とは

PFOS(Perfluorooctane sulfonic acid/ペルフルオロオクタンスルホン酸)は、有機フッ素化合物の一種です。
有機フッ素化合物とは炭素とフッ素の結合をもつ化合物の総称で、1万種類以上存在するとされています。
その中でもPFOSは、「自然界で分解されにくく、環境中に蓄積されやすい」という特性から、PFOAと合わせて大きく注目されています。
PFOAについて詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
PFOA(ペルフルオロオクタン酸)とは?特性や規制の現状と有害性について解説
PFOSの特性と規制の背景
PFOSは自然界で極めて分解されにくい性質を持っており、「フォーエバーケミカル(永遠の化学物質)」と呼ばれるPFAS(Per- and Polyfluoroalkyl Substances)の一種に分類されます。
大きな特徴は「分解しにくい」、「蓄積しやすい」、「広範囲に広がりやすい」という3点です。
PFOSは炭素とフッ素の結合が非常に強く、通常の化学的・生物学的作用では容易に分解されません。環境や生物の体内に取り込まれると排出されにくく、残留しやすいこともわかっています。また、大気や水を通じて世界中に拡散する可能性にも注意が必要です。
PFOSは、強力な撥水・撥油性や耐熱性、耐薬品性があり、工業製品の製造で幅広く使用され、産業や生活の利便性向上に寄与してきました。
しかし2000年代に入り、環境や人体に蓄積した場合の悪影響が明らかになると、国際的に製造禁止や廃止措置が取られるようになっていきました。
日本における規制の現状
PFOSをはじめとするPFAS類の人体や環境への影響の調査は2000年代以降に本格化しました。
まず飲用水に関しても基準が設けられ、2020年にPFOSとPFOAを合算して50ng/Lを目標値とする方針が示されています。
2021年には化学物質審査規制法(化審法)に基づき、PFOSが第一種特定化学物質に指定されました。これにより、原則として製造や輸入が禁止されるようになっています。
ただし、PFOSはかつて工業製品などで広く使用されていた経緯から、残留汚染は依然として大きな課題です。特に米軍基地周辺の環境調査で高濃度のPFOSが検出される事例が報告されるなど、今後も継続的なモニタリングが求められています。
世界におけるPFOSの動向
PFOSの世界的な規制が大きく進展したきっかけは、2009年、ストックホルム条約でPFOSが持続性有機汚染物質(POPs)に追加されたことです。152を超える国々がこの条約に批准し、PFOSの生産と使用を制限、代替物質への移行が促進されました。
国連環境計画(UNEP)のグローバルモニタリング計画(GMP)でも、環境中のPFOS濃度を定期的に監視しています。
企業の動きを見ると、アメリカの3M社が2000年に自主的にPFOSの生産を中止し、その他の企業も同様の動きを見せるなど、世界各国で段階的な廃止が進みました。
飲用水に関しても、下記のように各国で暫定的なガイドラインや基準値を設けています。
国/地域 | PFOA(ppt) | PFOS(ppt) | 備考 |
アメリカ | 4 | 4 | 2023年3月のEPA提案MCL(確定前) |
カナダ | 200 | 600 | 2018年の暫定ガイドライン |
オーストラリア | 560 | 270 | 2018年の暫定値 |
PFOS含有の可能性がある物・製品

PFOSが含まれている可能性のある物や製品として、以下のような例が挙げられます。
- ●半導体や電子機器の製造工程
- ●金属メッキ処理剤
- ●消防用泡消火剤
- ●ノンスティック加工の調理器具
- ●防水衣類
- ●汚れ防止カーペットや家具
- ●食品包装や塗料
- ●清掃製品、皮革処理製品 など
現在では多くの国や地域で規制が進み、新しい製品にはPFOSが使用されないケースが増えました。しかし、古い製品や海外からの輸入品には依然としてPFOSが含まれている可能性があるため、注意が必要です。
どう違う?PFOSとPFOA・PFAS
PFAS(ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物)は「フォーエバーケミカル」と呼ばれる、非常に安定性の高い化学物質群の総称です。
その中でも代表的な物質がPFOSとPFOAです。
PFOSは高い耐熱性や耐薬品性を持ち、水に溶けやすく環境中を広く移動する可能性があります。一方で、PFOAは撥水性などの機能を持っており、PFOS同様に環境や人体への残留が懸念されている物質です。
特性 | PFOA(パーフルオロオクタン酸) | PFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸) |
化学式 | C8HF15O2 | C8HF17O3S |
機能基 | カルボキシル酸基(-COOH) | スルホン酸基(-SO3H) |
溶解性 | 水に部分的に溶けるが、極性有機溶媒に溶けやすい | 水に溶けやすく環境中での移動性が高い |
PFOSの人体への影響

PFOSは人体に蓄積しやすい性質を持つため、健康への影響が懸念されています。
現在、コレステロール値の上昇、免疫系への影響、甲状腺機能の乱れ、子どもの発達へのリスク、再生産機能への影響、特定のがんとの関連などが報告されています。
まだ確定的な結論が出ていない部分も多いものの、世界保健機関(WHO)の下部組織である国際がん研究機関(IARC)は2023年、PFOSを「発がん性の可能性がある物質」と分類しました。
このような国際的評価を受け、各国でさらなる規制強化や調査・研究が進められています。
PFOSに関連するよくある質問

PFOSに関連するよくある質問をまとめました。参考にしてください。
PFOSの何が問題ですか?
PFOSやPFOAなどのPFAS類は、環境や食物連鎖を通じて人間や動植物に悪影響を与える可能性が指摘されています。PFOAについては、動物実験で肝臓機能や仔動物の体重減少等への影響が確認され、人への影響としてコレステロール値の上昇や発がん、免疫系への懸念も報告されています。
泡消火剤のPFOSは使用禁止になったのはいつですか?
日本では、PFOSが特定第一種化学物質に指定されたことを受け、2010年4月に化審法により泡消火剤への使用が禁止されました。これにより製造、輸入、使用が原則禁止となり、メーカー各社も2010年4月までにPFOSを含む泡消火剤の製造を終了しています。
まとめ
PFOSは撥水・撥油性や耐熱性の高さから多くの製品に利用されてきましたが、環境中や人体に蓄積するとリスクをもたらすことが明らかになっています。
ストックホルム条約による規制や法的措置により、新製品では代替物質への移行が進められてきました。しかし、過去の使用による残留汚染や基地周辺での高濃度検出などが社会問題化しており、PFAS類全体についても未解明な部分が多いのが現状です。環境調査や水質検査に携わる方は、最新情報を踏まえつつ、適切な対策を講じるようにしましょう。